「情シスの非効率さや属人化を解消したい」「システムやツールなどを導入して情シスの業務を効率化したい」「効率化に成功した企業の事例を参考にしたい」
など、情シスが抱えている課題を解決したいと考えている経営層やリーダーは多いのではないでしょうか?
デジタル化が急速に進む中、情シス部門の業務量が増え、担当者の負担が増しています。またリモートワークの導入によって、情シス部門への問い合わせが増大し、ノンコア業務への対応に追われている現実もあります。結果として業務が非効率化し、情シス部門が本来担うコア業務に注力できないという組織も増えているでしょう。
そこで今回は、情シス業務が非効率になってしまう背景や効率化するためのポイントなどを解説します。加えて、効率化に成功した3つの事例も紹介するので、情シス部門が抱えている課題を解決したいビジネスパーソンの方はぜひ参考にしてみてください。
情シス業務が効率化しにくい5つの理由
新ビジネスの創出や働き方改革の推進のためには情報システム部門(以下、情シス部門)の活躍が不可欠です。しかし、思うように情シス部門の効率化が進まなかったり、組織全体のIT化・DX化が進まないケースも多いでしょう。その背景には5つの理由が存在します。効率化に乗り出す前に、現状を把握しておきましょう。
- 人員不足による業務過多
- リモートワーク化による影響
- IT関係の需要が大きすぎる
- 業務が属人化しやすい
- 簡単な質問での問い合わせが多い
人員不足による業務過多
多くの企業ではIT人材が不足しています。その結果、担当者の業務過多が発生しているのです。一人あたりの仕事量が多いために、労働時間や残業時間が多くなり、業務改善までリソースが割けない状態にあります。
IT人材の需給ギャップについては2030年に最大で79万人にのぼるという経済産業省の試算があります(2016年調査)。また独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の調査では、IT人材の「量」に対する過不足感について、89%が「不足している(大幅に不足している+やや不足しているの合算)」と回答しています(2019年調査)。
このように、人材不足によって、IT化やDX化を推進する以前に日々の業務の改善や効率化まで手が回らないという問題に直面しているのです。
(出典:IT 人材需給に関する調査|経済産業省委託事業、みずほ情報総研株式会社)
(出典:「IT人材白書2020」概要|独立行政法人情報処理推進機構)
h3:リモートワーク化による影響
コロナ禍以降、新しい働き方としてリモートワークやテレワークが普及しました。それにより、ICTツールの導入や活用が増え、情シス部門の業務量も増えました。
テレワークの導入によって、社員からの問い合わせやツールの設定などの雑務も急激に増加しました。人員不足同様、情シス担当者の仕事量が増えたために日々の業務に追われて業務効率化が難しくなったのです。
総務省の「令和4年通信利用動向調査の結果」によると、令和4年(2022年)8月時点でテレワークの導入企業は5割を超えています。企業規模や業種によって差はあるものの、依然として高い水準で推移しています。
テレワークやリモートワークが普及することで社員は柔軟な働き方が可能になった反面、情シス部門の負担はこれからも増していくことが予測されます。
(出典:令和4年通信利用動向調査の結果|総務省)
IT関係の需要が大きすぎる
現在のビジネスシーンでは業種や職種を問わず、仕事をするときには多くの職場でITツールが使われています。その分IT関連のニーズが急増しています。
デバイスの設定やネットワークの構築、情報セキュリティへの対策など、情シスの担当領域は多岐にわたります。新しいITツールやシステムを導入するときには、担当者が社員に使い方を教えたり、トラブル対応にかり出されるケースも多いでしょう。
前述の通り、リモートワークの普及やスマートフォン・タブレットの活用など、ITニーズは高まるばかりです。人的リソースに対して、処理すべき業務が多すぎる問題が効率化を妨げる一因になっているのです。
業務が属人化しやすい
情シスの担当者は専門的なスキルや知識を持ったIT人材です。そのため他の社員では対応できない業務がたくさんあり、属人化しやすいといわれています。担当者が少人数の職場(いわゆる「ひとり情シス」)では、特に業務の属人化が発生しやすく、課題を放置されがちです。
担当者が休んだり退職してしまうと、誰も対応できないといった問題が起こり得ます。その結果、業務が停滞したり、ミスが頻発するなどのビジネス上のリスクが生まれます。
新たな人材を登用しようにも、IT人材が不足しているために確保することもままなりません。いちからIT人材を育てるのには時間がかかります。属人化を解消するには、業務プロセスの改善やナレッジの共有など、全社的な取り組みが必要になるために、なかなか課題解決に着手できないのが現状といえるでしょう。
簡単な質問での問い合わせが多い
情シスはIT関連のトラブルを解決する「何でも屋」「便利屋」と見なされることが多いために、問い合わせ対応に追われがちです。
パソコンの設定が分からない、ネットにつながらない、スマートフォンの画面が割れた、ツールのパスワードを忘れたなど、日々発生するトラブルの多くは軽微なものです。しかしそのひとつひとつに対応していると、多くの時間を消費することになります。
情シスは本来なら、組織内のネットワーク、サーバー、データセンターなどの運用や保守などを担当する部署です。また情報セキュリティへの対応など、組織運営の安定を図ることも情シスの担当領域です。細かな問い合わせ対応などをしていると、これらのコア業務に注力できなくなります。
情シス部門全体の効率化を図るためには、軽微なトラブルを社員自らが解決できるような仕組みを作ったり、ITツールを活用するなど、抜本的な解決策を検討する必要があるでしょう。
情シス業務を効率化するための4つのポイント
情シス業務の効率化には先に述べたような多くの課題がありますが、効率化を進めないと担当者の負担は増すばかりです。会社のDX化も進みません。そこで、次の4つのポイントを意識して効率化に着手してみましょう。
- 社内FAQや社内チャットボットを導入する
- 情シス業務をアウトソーシングする
- トラブル用のマニュアルを作成する
- 定型業務を自動化させる
社内FAQや社内チャットボットを導入する
簡単な質問に対しては、社内FAQや社内チャットボットで対応するのが効果的です。
社内FAQでは、よくある質問と答えをExcelにまとめたり専用のページを作って公開する方法があります。
社内チャットボットは社員からの定型的な質問に答えてくれるツールです。近年はAI(人工知能)を搭載しているツールが増えているため、的確な答え=解決策が得られるようになっています。スマートフォンからでも気軽に質問できるため、社員はいつでも疑問を解消できます。
どちらも情シスの仕事を削減するのに役立ちます。情シスは質問を受けるたびに自分の仕事を止めて対応する必要があるので、生産性も低下しがちです。システムやツールが代行することで、情シスの生産性が上がり、労働時間の時短化にも寄与するでしょう。
情シス業務をアウトソーシングする
情シス業務を外部の企業や人材にアウトソーシングする方法もあります。IT人材の人手不足はどの企業も共通の課題です。社内リソースが足りないので新規に採用しようにも、優秀な人材が確保できる見込みはありません。社内の人材を育成するのにもコストと時間がかかります。
アウトソーシングを利用すれば、専門知識や実績のあるIT人材に業務を委託できます。自社の情シス部門はコア業務に専念できるでしょう。
「ヘルプデスク」「システム開発」「システムの運用保守」「ツールの導入・定着」など、委託できる業務はさまざまです。アウトソーシングにはコストがかかるため、費用対効果を試算しつつ検討しましょう。
トラブル用のマニュアルを作成する
社内FAQやチャットボット同様に、マニュアル導入も有効な手段の一つです。マニュアルを作成・共有することで、社員は自己解決を図れます。
よく発生するトラブルと解決策をExcelなどにまとめて、共有できる仕組みを構築することで、情シスの負担を軽減できるでしょう。情シスが社員から過去のトラブルと同様の問い合わせを受けた際には、マニュアルの該当箇所を示すだけなので対応時間の短縮化を実現できます。
マニュアルはExcel以外にも専用ツールで作成可能です。専用ツールを使うことで、情報のアップデートや共有、検索などがスムーズに行えるので、社員の利便性も向上するでしょう。
定型業務を自動化させる
情シスが行っている業務のうち、定型的なものはRPA(Robotic Process Automation)を導入して自動化する方法もあります。
例えば、以下のような業務は自動化ができるでしょう。
- データ収集・分析・整理
- システムのモニタリング・アラート生成
- データのバックアップ
- トラブルシューティング
自動化によって業務負担が軽減すれば、より戦略的な仕事に時間を割けるようになります。
情シス業務の効率化に成功した3つの事例
情シスが抱えている課題は組織によって異なります。それぞれの課題に応じて最適な解決策を選ぶ必要があります。ここでは、解決策のヒントとなる3つの事例を紹介しましょう。
- アウトソーシングが成功した事例|日本映像翻訳アカデミー株式会社
- チャットボット導入が成功した事例|帝人株式会社
- FAQを充実させた事例|株式会社ディー・エヌ・エー
アウトソーシングが成功した事例|日本映像翻訳アカデミー株式会社
日本映像翻訳アカデミー株式会社は、保守運用サービスをアウトソーシングすることで情シス業務の効率化につなげました。
同社は40名程度の企業のため専任のIT人材を雇用するのが難しいという現実がありました。情シス業務は総務担当者が兼任していました。大容量データのやりとりによって発生していたネットワーク障害の解決にあたるのも総務担当の社員でした。
しかしITの専門家ではなかったことから、トラブル発生時に解決まで時間がかかってしまい、大きな機会損失が発生していたといいます。そこで担当者の負担軽減や損失回避などのために、保守運用サービスの外注化を決めました。
アウトソーシングの導入によってトラブルが発生しても早期に解決できるようになり、機会損失を未然に防げるようになりました。担当者は情シス業務を外注化することで本来自分がすべき業務に注力できるようになったといいます。
【出典】情シスの業務効率化を叶える方法!働き方改革を実現するアウトソーシングとは|ビジネストレンド|キヤノン
チャットボット導入が成功した事例|帝人株式会社
帝人株式会社は、人事・総務関連の情報をイントラサイトに構築していました。しかし社員は適切な情報を見つけることができず、結局バックオフィスに問い合わせるという状況に陥っていました。その結果、バックオフィスの社員が電話やメールの対応に追われ、業務負担が増大していました。
こうした問題を解決するためにチャットボットを導入して、FAQを整備しました。導入後はバックオフィスへの問い合わせが20%削減できたといいます。バックオフィスの社員は「同じことに何度も回答しなくて良くなり、精神的に楽になった」と感じるなど、業務効率だけでなくストレス軽減にもつながりました。
【出典】チャットボットを活用し、バックオフィスへの問い合わせを20%削減。利用した社員の自己解決力向上を実感|OfficeBot
FAQを充実させた事例|株式会社ディー・エヌ・エー
株式会社ディー・エヌ・エーは社内に散在していたナレッジを一元管理するために専用のITシステムを導入しました。その結果、社員は困ったことがあったらまずシステムを開き、簡単な問題をFAQで解決するという流れが生まれました。こうした自己解決率の向上によって、ヘルプデスクに寄せられていた問い合わせ件数が減り、負担が軽減したといいます。
システム導入後に本社を移転した同社では、移転に関するFAQページを強化。50項目近いFAQを用意することで問い合わせの頻度を減らし、担当者の業務負担軽減につなげました。
【出典】情報システム部門が効果的に社内問い合わせ対応業務を効率化できる方法 – Zendesk 日本語
まとめ
本記事では、なぜ情シス業務は効率化しづらいのか、効率化するためのポイント、成功事例などを紹介しました。
デジタル化が進展する中で組織における情シスの重要性は増しています。それに比例するように担当者の負担も増え、業務内容も複雑化しています。情シス業務は専門性が高いこともあり、属人化の解消が難しいといった問題もあります。IT人材の不足なども相まって、「ひとり情シス」の問題に頭を悩ませている経営層やリーダーも多いでしょう。
ここで紹介したように、情シスの負担を減らすためには社員の自己解決能力を高めることが重要です。具体的には社内FAQや社内チャットボット、マニュアルの整備などが重要です。組織に散在するナレッジを蓄積し、社員が活用できる仕組みを構築することで、情シスへの問い合わせが削減できるでしょう。
ナレッジの蓄積・共有・活用には、専用のITシステムを導入するのがおすすめです。ぜひ検討してみてください。